「本朝廿四孝」と称される文楽の代表的な作品の中で、八重垣姫が登場するエピソードは、彼女が愛する人物を救うために諏訪湖の氷上を勇敢に渡るロマンティックな物語です。この場面は特に感動的で、観客に強い印象を与えます。
諏訪市の湖畔公園内の石彫公園から諏訪湖上に浮かぶ高さ6mのブロンズ像を間近で見ることもできます。
八重垣姫のあらすじ
諏訪湖上の銅像の八重垣姫が右手に持っているのは諏訪大明神様の諏訪法性の兜なのです!
本朝廿四孝狐火の段
諏訪湖半の石彫公園に書かれている石碑の内容です、読みやすく改行して書きました。
謙信の娘八重垣姫は武田勝頼とは戦略上の許婚であった。
まだ見ぬ勝頼はふとした事より此の世を去ったと聞かされて娘心の一念に恋しい勝頼の絵像に向かい毎日回向に餘念がなかった。
たまたま謙信の館に菊造りとして住み込んだ蓑作があまりに勝頼に似て居るところから、
濡衣を介してただしたところ蓑作とは真赤な偽り勝頼の変名して諏訪法性の兜を取りかへさんとの企らみ、
最早や此の世の人でない恋しい勝頼様が目の前に現はれたかと天にも登る心持の八重垣姫に兜を取りかへしてくれと頼む。
此の場の様子を物かげにて立聞きして居た謙信は蓑作の勝頼を塩尻迄の使に出し、
あとから追手を差し向けて討ち果さん所在の謙信に泣いて助命を頼めども、情容赦もあらばこそ諏訪湖に浮ぶ月影がやがては消へる運命かと身を震はして
八重垣が天を仰いで嘆息し鳥になりたい翼がほしい早くこの事を知らせたい、心は千々に乱れ共今はなすべき術もなし。
この上頼むは神仏床に祀りし法性の兜の前に手をつかえ諏訪明神より武田家へ授け賜はるおん宝、
とりもなおさず守神今の難儀の勝頼様を助け給へと兜を取って押しいただきて人目をしのび泉水のほとりにくるなれば、
池にうつりしあやしき影今はたしかに狐の姿、ハット驚き飛びさがり水面をそっと見直せば目にうつりしは己の姿迷いの影かまぼろしかさて不思議やと、
とつおいつ千々に乱るる八重垣が勝頼様よと兜を捧げ、のぞけば又も白狐の姿まこと当国諏訪明神は狐を以って使はすとうわさにきくが今見たり神体ひとしき兜とあらば八百八狐つき添いて守護することもあるならん。
思い出したりこの湖は氷張るれば、御神渡り神の狐の足跡を知るべに心安泰と人の行き交う諏訪の湖もしも狐の渡らぬ先きに、
のぼれば忽ち氷は割れて水に溺ると人は云う、たとえ神渡りあらず共夫を思う念力に神の力の加はる兜勝頼様に返せよと諏訪明神の御教え忝けなやありがたや、
兜をとって頭にすれば忽ち姿狐火のぱっと炎立つここかしこ鏡の如き氷の上にきらきら光るは兜か星か乱るる姿の八重垣は諏訪法性に護られて諏訪湖の上を渡りゆく。
要約したあらすじ
八重垣姫は伝統的な浄瑠璃劇「本朝廿四孝」において重要な役割を演じる姫君です。
物語の中では、武田信玄と上杉謙信が、諏訪大明神から授かった家宝である諏訪法性の兜を巡り、対立しています。
この兜が謙信によって借りられ、そのまま返却を求められたが知らん顔をして問題が発生します。
八重垣姫は謙信の娘であり、武田家との和解を願い、勝頼の婚約者となりますが、八重垣姫は勝頼に真剣な恋心を抱いています。
物語はさらに展開し、自害したと思われた勝頼が実は生存していることが明らかになります。しかし、謙信が暗殺者を送り込んだため、勝頼の命が危険にさらされます。
この知らせを受けた八重垣姫は、勝頼に危険を知らせようとしますが、凍った諏訪湖を渡る手段がなく、途方に暮れます。
絶望的な状況の中で、八重垣姫は諏訪法性の兜に祈りを捧げます。すると、白狐が現れ、湖上に狐火が灯り、八重垣姫に進むべき道を示します。
この神秘的な光景を背に、八重垣姫は諏訪法性の兜を持って狐に導かれ、湖を渡って勝頼の元へと向かって救っています。
このクライマックスは「御神渡り」として描かれ、この上演は諏訪人にとっては、このシーンは特に印象深かったです。
舞台では、八重垣姫が諏訪湖を渡る「奥庭狐火の段」が目を引きくと思っています。
その後、その兜は武田家に返還され、勝頼を含む結婚式も無事に行われ、両方の将軍は後世に名を遺すことになった。
また、諏訪湖には八重垣姫の巨大な像が設置されており、その大きさは実際に見るまで理解し難いものがあります。
その迫力は、遠くからでも明確に感じられる一方で、その大きさには驚かされることでしょう。
この像は、諏訪大明神の加護を受けた姫の象徴とも言えるでしょうが、八重垣姫の本質は繊細で優美なものであることを忘れてはなりません。
諏訪法性の兜(すわほうしょうのかぶと)
八重垣姫が勝頼への警告を伝えるために祈った「法性の兜」は現在も存在し、それは「諏訪湖博物館・赤彦記念館」で武田信玄の「諏訪法性の兜」としてレプリカが展示されています。
その脇には八重垣姫の浮世絵もあって浄瑠璃や歌舞伎を江戸時代の庶民の楽しみではなかったと思っています。
諏訪法性兜(すわほっしょうのかぶと)
戦国武将、武田信玄が着用したと伝わる兜。諏訪神社より出陣の度に借り受けたとされ、軍神として信仰された諏訪明神を武田信玄も厚く崇敬したといわれています。
その名は江戸時代初期に集成された「甲陽軍鑑」のなかに記述されている。
もとは諏訪大社神長官守矢家に伝えられていた。
江戸時代の明和三年(一七六六)に人形浄瑠璃としてつくられた物語「本朝廿四孝」の十種香の段に出てくる兜、また歌舞伎でも盛んに演じられそのときに使われている兜はこれである。
「諏方法性兜」と呼ばれる兜はいくつかあるが、数多くの浮世絵に登場する兜はこの形のもので、大変有名である。
武田信玄に関する言い伝えは大変多く、江戸時代から庶民に人気があったと思われ、この兜もそうしたなかの一つとして語られ続けている。
博物館内の説明板より
NHKの知るしんで放映
八重垣姫 諏訪湖をかち渡る
- 初回放送日:2024/11/29(金)午後7:30~午後7:57
- 2回放送日:2024/11/30(土)午前10:05~午前10:33
- NHKプラス配信:放送終了後~12/13(金)まで
- NHKプラス配信後:放送終了後~12/21(土)まで
2024/10/26:諏訪湖のほとりで26日の夜に開催された人形浄瑠璃文楽の公演が、観客を伝統的な芸術の魅力に引き込みました。
この特別な舞台設定は、来場者にとって、文化的な体験の深さを一層増すものとなりました。
文楽、ユネスコに認定された無形文化遺産です。この伝統芸術が劇場を越え、諏訪湖の神秘的な舞台で展開された新たな試みが注目を集めました。
文楽の代表的な演目「本朝廿四孝」では、八重垣姫という主人公が愛する人を助けようと凍った諏訪湖を横断するシーンが特に印象的です。
このプロジェクトは、地元諏訪の住民が主導し、文楽を通じて地域に新しい光をもたらし、文化的な価値を再発見しようとする試みで上演されましたね。
まとめ
- 作品名と初演年: 『本朝廿四孝』は1766年に初めて演じられた日本の伝統的な演劇です。
- 主要なキャラクター:
- 八重垣姫:長尾(上杉)謙信の娘で、武田勝頼と結婚する予定。
- 武田勝頼:八重垣姫の許婚(婚約者)。
- ストーリーのきっかけ: 諏訪明神からもらった特別な兜(かぶと)がきっかけで、武田家と長尾家が喧嘩を始めます。
- 物語の展開:
- 二つの家が仲直りするため、八重垣姫と勝頼が結婚することになります。
- でも、将軍が暗殺されてしまい、二つの家がその疑いを晴らすために大きな犠牲を払います。
- 皆が勝頼が死んだと思ったけど、実は生きていて、八重垣姫に会いに来ます。
- クライマックス:
- 姫は兜に願いをかけて、諏訪明神の使いである白狐に助けられます。
- 氷が張った諏訪湖を渡って、勝頼の元へ行きます。
- 結末: 最終的に、二人は再会し、結ばれます。いざこざを起こした悪人たちも倒されます。
このお話は、家族の間のいざこざを乗り越えて、最終的には愛が勝つというメッセージが込められていますね。